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研究員のつぶやき

2024年12月28日

野外研修会『大阪府池田市秦野鉱山』の報告(その2)
 秦野鉱山ではスカルン鉱床に特徴的な様々な金属鉱物が産出します.その中でも外観の“黒い鉱石”が多いのが特徴です.鉱山が採掘されていた当時のズリは今ではほとんど見ることができなくなっていて,鉱石は鉱山のあった下流の谷筋の転石で見つけることができます.谷筋に落ちている石の大部分はホルンフェルスで,それと金属鉱物を伴うスカルンや鉱石を区別することが大切です.金属鉱物を含む石は表面が褐色~黒色に変色し,ずっしりと重く,角が丸くなっているのが特徴です.このような石は硬くて割るのには苦労しますが,石の端(角)から少しづつ割るのがコツで,上からいきなりハンマーでたたいても割れません.
写真1 秦野鉱山の黒色鉱物(灰鉄輝石・ザクロ石を含む)
 写真1は,秦野鉱山でよく見つかる黒い鉱石で,磁石を近づけるとよくくっつきます.また破面をルーペで観察すると,キラキラと輝いているのが特徴で,何種類かの鉱物が集まっているのがわかります.磁石がくっつくことから磁鉄鉱が含まれていることはすぐに想像できますが,そのほかにどのような鉱物が含まれているかを考えてみましょう.
写真2 珪灰鉄鉱の自形結晶
 最も特徴がはっきりしているのが方鉛鉱です.色が鋼灰色(やや青みがかった銀色)で金属光沢が強く,サイコロのようにきれいに割れる立方体の劈開が特徴です.また,黒色でキラキラした劈開があるのは閃亜鉛鉱です.このような集合体の中の磁鉄鉱は黒色で,方鉛鉱や閃亜鉛鉱のような劈開がなく,やや鈍い金属光沢が特徴です.さらによく見ると,黒色でガラス光沢の部分がありこれは珪灰鉄鉱で,稀に自形結晶の見られることもあります.
 秦野鉱山の黒い鉱石の中からこの4種類の鉱物が鑑定できれば合格です.
写真3上 灰重石を含む標本
もう1つ秦野鉱山でよく見つかる鉱物がタングステンの鉱石鉱物の一つである灰重石です.灰重石の化学組成はCaWO4,結晶系は正方晶系に属します.産出のよく知られている京都府の大谷鉱山や鐘打鉱山は高温熱水鉱床ですが,山口県喜和田鉱山のようにスカルン鉱床にも産出します.
 秦野鉱山の灰重石は灰鉄輝石に伴うことが多いですが,塊状の磁硫鉄鉱を主とする石にも伴います.小さいですが時に自形結晶も見られます.灰重石はここの鉱石や脈石には普遍的に含まれているのですが,鉱山の操業時には灰重石は鉱業目的の鉱石になっていなかったと思われます.
写真3下 短波紫外線で照射した時の様子
 写真3は細粒の灰鉄輝石に,閃亜鉛鉱・方鉛鉱・黄銅鉱・磁硫鉄鉱・方解石を伴う石で,肉眼ではよくわかりませんが短波紫外線を照射すると灰重石をたくさん含んでいることがわかります.ただし,最近の安価で販売されているブラックライトは主に長波紫外線なので,残念ながらこれでは蛍光は発しません.
 観察会の当日は幸い曇りがちの天候でうす暗かったこともあり,携帯用の短波紫外線ランプでも灰重石の存在をよく確認することができました.

2024年12月5日

野外研修会『大阪府池田市秦野鉱山』の報告(その1)
 2024年11月24日(日)に『大阪府池田市秦野鉱山』へ野外研修会を実施いたしました.定員が30名のところ,申込日の初日に60名を超える申込みがあり,厳正な抽選によって33名の方に参加していただきました.
 関西では鉱物の観察できるところが少なくなってきている中で,秦野鉱山は交通の便もよく,金属鉱物やスカルン鉱物など多くの鉱物を観察・採集できる貴重な所です.
ロープを使って急な坂を上る様子
 阪急箕面線の箕面駅前に10時集合.この日は紅葉シーズン真っただ中で,駅前は『箕面の滝』へハイキングに行く人で大混雑していました.
 定刻の10時に参加者全員が集合し,秦野鉱山へ向かいました,ここから秦野鉱山へは約2.5kmで,50分ほどで鉱山への入り口の谷に到着しました.
 鉱山へは小さな谷を上るのですが,途中に堰堤がありその横を上ります.急斜面のため,あらかじめ鉱物鑑定士の香山さんと藤井さんにロープを張ってもらい,参加者全員がロープを頼りに,無事に堰堤の上にたどり着くことができました.堰堤から200mほど谷を登って少し広くなったところで参加者が集合して,採集方法やここで見つかる鉱物について説明がありました.
秦野鉱山で転石を観察する様子
 秦野鉱山はスカルン鉱床で,灰鉄輝石やザクロ石に伴って,銅・亜鉛・鉛の鉱物では黄銅鉱・閃亜鉛鉱・方鉛鉱,鉄の鉱物では磁鉄鉱・磁硫鉄鉱などが産出します.また灰鉄輝石や磁硫鉄鉱にはタングステンの鉱物である灰重石を伴う特徴があります.
 閃亜鉛鉱・方鉛鉱・磁鉄鉱・珪灰鉄鉱の集合した真っ黒な塊も多く,この塊をルーペで観察して,それぞれの鉱物が見分けられるようになるのが大変です.
 灰重石は大きくても5㎜ほどで,大部分は1㎜以下の小さいものですが,持参したミネラライト(短波紫外線ライト)をあててみると,青白色の蛍光を発するのでよくわかります.肉眼では全く入っていることがわからない石でも,紫外線をあてると点々と蛍光を発するのがわかります.ただ,一般に市販されている『ブラックライト』では長波紫外線のために発光しません.
 午後には少し時雨てきましたが,大した雨にも降られることなく,午後2時に鉱山を後にして帰路につきました.
公益財団法人 益富地学会館
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